国宝西明寺三重塔再生活用事業
国宝西明寺三重塔は、前回の修理から37年が経過し、屋根(檜皮葺)の腐朽が甚だしくなり、耐用年限に達したことから、再生活用事業を実施することとなりました。
再生活用事業は、屋根(檜皮葺)葺替修理『再生』にともない、積極的に修理現場の公開『活用』に取り組む事業です。
なお、この事業は国(文化庁)・滋賀県・甲良町の補助を受けて実施しました。
事業の概要
1.事業期間
平成23年4月1日~平成24年3月31日 (事業期間12ヶ月)
2.主な修理内容
屋根(檜皮葺)葺替修理
前回の屋根葺替修理から37年余りが経過し、屋根全面に苔の繁茂が見られ、経年による腐朽が屋根全体におよび、平葺は既に耐用年限に達していることから、軒付の腐朽部分と平葺の全てを葺き替える屋根葺替修理を行いました。
須弥壇漆塗り直し
塔内部にある須弥壇本体や高欄の黒漆・朱漆塗りを塗り直しました。
国宝西明寺三重塔について
1.指定年月日
明治33年(1900)4月7日
昭和27年(1952)11月22日 国宝指定
2.構造形式
三間三重塔婆、檜皮葺
3.建立年代
鎌倉時代 後期
4.建物の特徴
三重塔は、本堂南西の一段高くなったところに建っています。
この塔の建立年代は明らかではありませんが、様式手法からみて鎌倉時代後期のものと推定されています。
建立後の経緯については不明な点が多いですが、寺蔵文書により天和年間頃には相当破損していたらしく、心柱を取り替える等の修理が行われています。明治33年(1900)の指定後、明治43年(1910)に解体修理が、昭和13年(1938)・昭和48年(1973)に屋根葺替修理が行われ、現在に至っています。
水煙が失われていますが、伝統的な純和様の意匠でまとめられている塔です。逓減率が大きく、二重・三重の屋根間隔を小さくして、安定感を持たせた建物で、その建築美は三重塔の中でも屈指のものと言われています。
初重の内部は、中央に大日如来を安置し、四天柱には金剛界の三十二菩薩、四方の壁には法華経二十八品の要文と解説画が、また扉の八天像など仏画がよく残っており、長押・幣軸・天井等隅々まで極彩文様で装飾されています。
この塔は、各部ともよく整い、全体の調和が優れ、実に美しい姿を持つ三重塔です。
檜皮葺について
国宝西明寺三重塔の屋根は、檜皮(ひわだ)で葺かれています。
檜皮葺とは、読んで字のごとく檜(ひのき)の皮を使って屋根を葺く工法です。
古来より用いられてきた伝統的な工法で、7世紀後半にはすでに文献に記録が出てきます。
檜皮葺の建物は、立地条件や屋根の形状等により差はあるものの、概ね30年程度で檜皮葺の傷みが大きくなるので、その都度、「屋根葺替修理」を繰り返す必要があります。
37年を経て腐朽している三重塔の檜皮葺
腐朽が進んだため鉄板による応急処置を行っています。
檜皮葺の屋根を完成させるためには、
  1.檜から檜皮を採取する   2.採取した皮を拵(こしら)える(整形する)   3.拵えた皮を屋根に葺く
といった作業が行われます。各工程は次のようになります。
1.檜から檜皮を採取する
耐久力にすぐれた檜皮(ひわだ)は古くから日本固有の特殊な方法で採取(生産)されます。
檜皮を採取する技術者を『原皮師(もとかわし)』と呼んでいます。
檜皮葺(ひわだぶき)の仕上がりや耐久性は、材料の檜皮の良否に左右されるところが大きく、檜皮採取は檜皮葺の建物の保存に欠くことのできない重要な技術です。
檜皮は、50~60年以上成長した檜の立木から主に採取します。
採取は、原木が傷まないように、秋から冬場、木の中の水分の動きが少ない時期に行われ、内樹皮を傷つけないようにしながら外樹皮(檜皮)を剥ぎ取ります。
木の根元部分からへらを差し込み、右手にへら左手に皮を持ち、下から上へ引き剥がす要領で、巾25㎝程度ごとに皮を剥ぎ取ります。連続して同じ要領で木の周囲を剥ぎ取ります。
高いところはロープで体を固定しながらの作業となり、非常に危険で冒険に近い作業です。
皮を剥ぎ取られた木は、約8年程度で皮が再生され、再び採取できるようになります。
『振り縄』と呼ばれるロープを使用して体を固定しながら、上部の皮を採取します。
2.採取した皮を拵える(整形する)
原皮師(もとかわし)によって採取された皮を『原皮(もとかわ)』といいます。
原皮の状態では、皮はぶ厚く、そのままでは屋根に葺くことが出来ません。そこで『檜皮包丁(ひわだぼうちょう)』と呼ばれる専用の刃物を使用し、荒れた部分やヤニ・節を取り除き、厚さ・形状を整える必要があります。
各部分で使われる皮の大きさに揃えるため、原皮を薄く剥いだ皮を2~3枚使い、檜皮包丁の先端の尖った部分でコツコツたたいて上の皮が下の皮に食い込むことで1枚の皮となるよう、整形します。この作業を「綴(つづ)る」といいます。
檜皮を採取したり、整形する作業は、非常に地味なもので、屋根に上がり「葺く」作業よりも何倍もの手間がかかると言われています。
なお、檜皮葺では、整形した檜皮を『竹釘』で止めます。
竹釘は、ふつう真竹(まだけ)が使用されます。決められた長さ(平葺用で3.6㎝)、直径(3mm程度)になるよう裁断された竹材を天日乾燥させ、その後焙煎し製作されます。
3.拵えた皮を屋根に葺く
檜皮葺を行うには、大きく分けて「葺く」技術と、「積む」技術が使われます。
「葺く」技術は、屋根面を檜皮で覆っていく技術です。最も多く使用される平葺皮(ひらぶきかわ)は、一般的な仕様で長さ75cm、幅は先端で15cm程度の細長い台形をしています。
先ず皮を水で濡らし、1枚1枚横方向に敷き並べます。次に1枚毎に1.2cmずらしながら重ねて葺き上がり、5枚重ねる毎に竹釘を2cm程度の間隔で打ち付けます。この時、『屋根金槌(やねかなづち)』を使用します。1枚75cmの長さの皮を1.2cmずつづらしながら葺くので62.5枚重なることとなります。厚さにすると9cm程度の葺厚となります。
「積む」技術は軒先(軒付《のきづけ》)や棟(品軒《しなのき》)の部分に用いる技術です。積むために用いる皮は、軒付皮(のきづけかわ)と呼ばれています。軒付皮を厚さ2.4cm、幅15cm程度に重ねたものを、一つの単位(一手)として、十分水に浸し、土台となる裏板の上に積み、竹釘で打ち締めます。軒付皮を積む時には、一手ずつが一体になるように横部分を十分に摺り合わせながら、差し込むようにして所定の高さまで積み重ねます。積み終わると外側に面して見える部分を『釿(ちょうな)』で所定の角度になるよう切り揃えます。
この両方の技術に共通して用いられる特殊な技術があります。竹釘を片手で打つ技術です。
先ず20~40本の竹釘を口に含みます。竹釘を一本ずつ、舌を使って頭が平らになっている方を先にして口から出し、くわえます。金槌を握っている手でこの釘を掴み、金槌の柄についている金属の部分(伏金<ふせがね>)を使って、檜皮に突き刺し、次に金槌の頭を使って、完全に打ち締めます。この間、空いている手は檜皮がずれないように押さえています。
檜皮葺に使用される竹釘は、平葺(屋根面)で一坪(3.3㎡)あたり2,400~3,000本という膨大な量を必要とします。
完成した平葺(隅)
平葺の断面
こけら葺について
重要文化財西明寺二天門の屋根は「こけら板」で葺かれています。
「こけら」を辞書で引くと「木材を削るときできる木の細かいかけら。また、木材を細長く削りとった板」と載っています。新しい劇場が完成し、初めて使うときのことを「こけら落とし」と言うのは、建物の工事の最後に、屋根などから木くずを払い落としたことに由来しています。
重要文化財西明寺二天門
木の薄い板を使って屋根を葺く方法は、「こけら(柿)葺」「とくさ(木賊)葺」「とち(栩)葺」の3種類があります。名前の違いは、材種の違いではなく、平葺板(屋根表面を覆う平葺に使用する材料)の厚さの違いです。「こけら板」は厚さ3mm程度、「とくさ板」は厚さ4.5mm~6mm程度、「とち板」は厚さ9mm~30mm程度です。
材種は、杉、椹(さわら)、栗などが使われます。
こけら葺の屋根を完成させるためには、
1.こけら板を拵える(整形する) 2.拵えたこけら板を屋根に葺く
といった作業が行われます。各工程は次のようになります。
1.こけら板を拵える(整形する)
こけら葺に使う板を、こけら板と呼び、全て手作業で拵えます。
こけら葺きの屋根を完成させるために最も多量に使用する、屋根表面を覆うために用いる平葺板(厚さ3㎜)を拵える方法について紹介します。
まず、長い丸太(約直径80㎝)をこけら板の長さ(30㎝)に切断します。
その丸太の切り口を下にして、大割包丁と木槌で丸いケーキを切り分けるように、ショートケーキ状に丸太を割ります。
ショートケーキ状の丸太を、包丁と木槌で、厚さが2.4㎝の板になるように割ります。
厚さ2.4㎝の板を半分(1.2㎝)、またその半分(0.6㎝)にこけら包丁で割り、次に少し包丁で先端に割目を付け、後は手で2枚に引き裂くように割って、厚さ3㎜の板に拵え、最後は包丁で表面を整えます。
定規を使い、厚さ2.4㎝の板材に割ります。
割目から左右の板を引き裂くように手で割ります。
2.拵えたこけら板を屋根に葺く
こけら葺は、材料の違いはありますが、工法的には檜皮葺と似ています。屋根金槌を使い片手で竹釘を打つ技術を駆使しながら、「葺く」技術と「積む」技術を用いて屋根を施工します。
しかし、檜皮葺とは異なる点もありますので、こけら葺にだけ見られる技術について紹介します。
「葺く」技術では、銅板を平葺板の間に葺き込みます。平葺板を1枚毎に3㎝ずらしながら葺く場合は、10枚葺く毎に1枚銅板を葺き込みます。このようにすることで、こけら板の痛みが少なくなり、耐用年限が長くなると考えられています。
「積む」技術では、軒付、品軒を施工するために、一枚ずつ小軒板を積み上げ、最後に外側に面して見える部分を、台鉋(だいがんな)を用いて平らに仕上げます。
修理を続けながら建物を保存し、未来に引き継ぐことは、その建物に使われている伝統的な技術、例えば檜皮葺やこけら葺などの技術をも同時に、後世に継承することに繋がります。
屋根金槌で竹釘を打ち、平葺を行います。
完成した平葺(隅)