この度平成18年9月18日より10月27日まで西明寺秘仏本尊薬師瑠璃光如来を御開帳することになりました。
西明寺の御本尊の由来は寺伝によりますと、平安時代の初期にあたる承和元年(834年)の或る日、三修上人(慈勝上人)が、琵琶湖の西岸を歩いておられると、突如として琵琶湖東方の彼方より、紫雲が現われ光がさしてきました。
この雲や光を御覧になった上人は「この光の源をたずねれば、きっとすばらしい霊地があり、修行中の私に何かを悟らしめて、重大な使命が下されるに違いない」との霊感に打たれました。そして、飛燕の術(当時特殊な修行を終えて会得した高僧たちが、心得ていたことに空を飛ぶことのできる術があり、修験道で名高い役行者も、そのうちの一人であったとされている)を修得していた三修上人は、直ちに琵琶湖を飛び越えて、湖東の地(現在の西明寺)へ来られたのであります。
「このような有難いまぶしい御光明を放たれるのには、何か事情があるのでしょうか。この清浄な霊地から湧き出づる泉を通しての御光明は、何を暗示しているのでしょうか。どうか御教示賜りたい。拙僧にできることであれば、この身を賭しても従いますので、事情を御教示願いたい」と池に向かって祈念なされました。
やがて、不思議なことに薬師如来の尊像が浮かび、しかも日光菩薩、月光菩薩十二神将を随えておられたのであります。
そして、三修上人は尊い薬師如来の御姿に感激し、その御姿を御祀りしたいと閼伽池に向かって一心に祈願され、池の傍の立木を以てその尊像を彫刻されたのであります。
薬師如来が瑠璃光を放たれた閼伽池があることから、爾来この西明寺の地域は池寺として現在まで呼称されております。
また、三修上人がお彫りになった薬師如来の尊像が西明寺の御本尊とされたことは至極当然のことであります。薬師如来が現世利益と民衆の苦悩をお救い下さる仏様であることは知られておりますが、それぞれの世代に代表的な仏様がおられます。
過去の代表は釈迦牟尼如来であり、現世の代表は薬師瑠璃光如来であり、未来の代表は阿弥陀如来であるとされています。故に三修上人は人々が誰でも幸せであるようにと、当地で現世仏の代表である薬師如来を祈願されたのであります。
やがて、このことが、京都洛中に知れ、三修上人に帰依しておられた第54代仁明天皇のお耳にも達することとなり、承和三年勅命によって、本尊を始め諸堂が建立されて、薬師如来の瑠璃光が、西方を照らし明るくしたとして「西明寺」の勅額を賜わったのであります。
爾来、西明寺は仁明天皇の勅願寺として寺領二千石、山林数百町歩が与えられ、国家鎮護、万民安穏を祈願する道場として、また祈願する僧侶の育成と修行の道場として栄え、諸堂十七、僧坊三百を有する大伽藍となったのであります。また、同期間において、湖東三山の2ヶ寺(金剛輪寺、百済寺)もそれぞれの秘仏本尊を開帳することとなり、史上初の湖東三山秘仏本尊同時開帳となりました。皆様の湖東三山へのご参拝を心よりお待ち申し上げております。
合掌
(湖東三山・西明寺住職 中野 英勝)