本堂の中に常香盤(じょうこうばん)という香炉がありまして、1日中お香をたいております。 本堂の中はいつもお香の香りが漂っており、お参りにくる人が、「ああ良いお香の香り」と言ってくれます。 お香の香りの中におりますと、不思議と心が落ち着き、心静かに仏様にお参りできるものであります。 ところで、お寺やお仏壇やお墓にお参りをする際、大抵の方はローソクを燈(とも)し、お線香をお供え致します。 ローソクは正式には燈明(とうみょう)と言い、闇を明るく照らすことから、仏様から授かる智恵を象徴すると言われ、仏様を供養する代表的なものが香華(こうげ)と言ってお香とお花と、そして燈明であると説かれています。
仏教発祥の地、インドでは体臭その他の匂いを消すために衣服や部屋にお香をたくという習慣がありますが、仏教に説かれるお香は香水を原料とする線香や抹香(まっこう)を仏様に供え、その美しく妙なる香りによって身心を浄め、香りによって心を鎮め、香りによって祈りを深め、香りによってやすらぎの境地に導かれることを示していると言えます。
また、お香にはお香の十徳と言って十の優れた功徳があると言われております。
「香 十 徳」
1.「感格鬼神」… お香の香りは仏様やご先祖様だけでなく、鬼神をも感動させる。
2.「清浄心身」… 心身をきよらかにする。
3.「能除汚穢」… よく汚れを除く。
4.「能覚睡眠」… よく眠りを覚ます。
5.「静中成友」… ひとりでいる時の小さな楽しみである。
6.「塵裡偸閑」… 忙しい時にひと息つくことができる。
7.「多而不厭」… 多くても飽きることがない。ただし最近の香料入りのお香は嫌になるものがある。
8.「寡而為足」… すくなくても足りる。
9.「久蔵不朽」… 久しく蓄えても朽(く)ちない。
10.「常用無障」… 常に用いても障りがない。
香十徳は一休禅師が作ったものと言われているようですが、実際にはお香が庶民にまで広まった江戸時代に作られたもののようであります。 またお香をたく器のことを香炉と言いますが、或るお経の中に、「願わくば我が身浄(みきよ)きこと香炉のごとし」という一節があります。 仏教そのものを象徴するとも言えるお香をお供えする香炉のように、わが心も身体も清らかに高めたいという祈り、或いは誓いを表わした言葉であります。また、私が小僧の頃、師僧から「香炉はみほとけの口と思え」と教わったことがありました。
みほとけに仕える者にとって香炉とは自らの口の如く大切に汚してはならないものであるという教えでありました。
お仏壇の香炉がマッチ消しの代わりになっていたり、埃まみれであったり、ゴミ入れになっていたりするのを時折目に致しますが、香炉は私達の信仰を象徴するものであるという認識のもとに常に清潔に整え、清らかなお香の香りの中で、日々の信仰を深めてまいりたいものであります。
合掌
(湖東三山・西明寺住職 中野 英勝)