住職日記

心のゆとり

お釈迦様は「この世は苦しみの世界なり」として四苦八苦を説かれましたが、四苦八苦とは「生老病死」の四苦とあと四つの苦しみをたして八苦と言うのであります。中には四苦八苦とは4+8=12で12の苦しみがあるのですかと聞かれる方がいらっしゃいますが、四苦八苦とは4+4=8の八つの苦しみのことを言います。

 

あとの四苦とは、
1.愛別離苦(あいべつりく)… 愛する者と別れることからくる苦しみ
2.怨憎会苦(おんぞうえく)… 怨み、憎む者に会うことからくる苦しみ
3.求不得苦(ぐふとっく)… 求めるものが得られないことからくる苦しみ
4.五陰盛苦(ごおんじょうく)… われわれの肉体や精神がいつかは滅びていくことからくる苦しみ
の事を言います。

 

先日、人間関係で悩んでいる人から相談を受けたのですが、その人の悩みこそが「怨憎会苦」でありました。生きている限り、怨みや憎しみの出合いも避けがたい宿命であります。

どなたとでも仲良く、心を通わせ、明るく楽しく人生を生きていきたいとは、唯しも願うことでありますが、馬が合わないとでも言いましょうか、どうしても気持ちの通じ合わない人というのは少なくとも1人や2人あるもののようです。
格別の理由があるわけでもないのに、その人と向かい合うと、いつの間にか気まずい雰囲気になってしまっていたり、気まずい雰囲気程度ならまだしも、本格的な喧嘩や、いさかいに発展する場合も生じたり致します。こうした出合いはできる限り避けて通るに越したことはないのですが、なかなかそうばかりもいかないのが現実社会のむずかしさであります。


こうした人間関係が円滑であるか否かは、それぞれの人生を大きく左右する大事な要素の一つと言えますが、このことに関連して蓮如上人という方は次のようにおっしゃっておられます。

 

「わが前にて申しにくくば、かげなりとも、わがわろきことを申されよ。聞きて心中をなおすべき」一般的に陰口というのはあまり気持ちのいいものではありませんが、蓮如上人は『欠点の多い未熟な自分でありますから、遠慮なく注意して下さい。面と向かって言いにくければ、陰口でも結構です。それを反省の材料として我が身を正して参ります。』と言われたのであります。これほどまでに自分に厳しく謙虚になりきるのは、決して簡単なことではありませんが、人様との関わりを考えてゆく上でとても大事な示唆を含んだお言葉であると言えます。とかく「我(が)」が先立ってしまいがちな私達でありますが、一歩下がって我が身を見つめるゆとりを大切にし、比叡山を開かれ日本天台宗の祖といわれる伝教大師最澄様の「己(おのれ)を忘れて他を利する」精神で毎日を過ごさせて頂きたいものであります。

 

 

合掌

(湖東三山・西明寺住職 中野 英勝)